スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
ページトップへ

春霖の忌

※シリアス・暗めのお話。
 苦手な方は閲覧をご遠慮下さい。
──春霖は、幼き頃より余り快くないものだった。
花冷えも重なり足先から剣を持つ指先まで、芯から冷え込みそうになる。
冬の冷え込みは然程堪えはしないが、
この頃はどうしても、暖かい時期の合間に来るためか、聊か辛い。

「……さむ……」

寝室の布団の中で、聖雪はこの夜何度目かの寝返りを打つ。
春先になったからと掛け布団を少し薄めのにしたのが良くなかったのだろうか。
あの御所市での戦いを終えた後は泥の様に眠ったのに、
ここ数日は、桜が咲く頃を見計らったかのように荒れていく天候の様に、
胸の奥に重い重い鉛のような感覚が溜まっていく。

雨戸を叩く雨音に紛れ、一つ、暗い室内に溜息が聞こえた。
幾度かの寝返りで乱れた黒髪が頬に伝い下りる。
結局眠れないと悟るしか他は無く、
ゆっくりと寝巻きの浴衣の襟元を直しながら身を起こした。

不意に、雨戸の隙間から青白い光が飛び込んできた。
はっと顔を上げた瞬間、遠くで何処かに落ちたらしい春雷の音が響く。

「──っ……!!」

反射的に身を竦め耳を塞ぐ。
ぎゅうっと、ぎゅうっと。
鼓動がドックドックと早くなり、初夏の青葉に似た瞳は固く閉じたまま、
暫しの時が流れていく。

「……っはぁっ……はぁ……」

ゆっくりと。ゆっくりと止めていた息を吐き出した。
そして息が静まると共に、瞼がゆるゆると力を抜いていく。



──あの日も、雷が鳴っていた。

赤ん坊の頃から感情が激しく乱れると、力を制御できず
身体が淡く光る、白燐蟲を宿した自分を慈しみ、
育て護り続けてきた──血の繋がらない、父と母。

自分にとっては世界で一番愛しい人達が、
自分を護ろうとして死んだ日。
何も出来ず冷たくなっていく身体に縋り付くしかなかった自分。
拾い子に過ぎず白燐蟲の力を恐れた親類がどんな仕打ちをしようと
幾度と無く両親は耐えて護ってきてくれた。
だから護りたかったのに──この力は、彼等の命を護れなかったのだ。

ゆっくりと、膝を抱えて顔を埋める。
ぎゅっと手を白くなるほど握り締めた。
思い知ったのは自分の手の小ささ。自分の存在の無力さ。

(うち……でけへん。お父ぅはん、お母ぁはん。)

土蜘蛛との決戦。
死線を何度も彷徨う攻防戦。
味方には死者も出た。
泣いている人達を、見た。
あの日の自分が、そこにいる。
一般人とて百人以上が彼等に殺されてきた。

自分もその仲間入りをしていたかもしれない。
敵の恐ろしさを実体験したからこそ、
今のままではどうしても出来ないと思った事がある。

(……うちが、精進足りぃひんのんかもしれまへんけど)

全ての人が護れるとは思っていない。
そこまで自惚れてはいない。
こうして一つ夜を明かすごとに誰かが血染めの景色の中で
嘆く未来を作った責を背負いきる勇気が無いだけだ。
当ての無いものに、抵抗する事も選択する事も出来ない一般人の未来を委ねる度胸は自分には、ない。

これから先、当て所なく続くゴーストとの戦いを自分は受け入れてこの学園に来た。
復讐の為ではない。

ただ、もう二度と見たくなかったのだ。
家族との幸せな時間が、家族の命が、壊される未来を。
抵抗する手段の無い人々を護る為に、この力があるというのなら、
自分の存在にもまだ少しでも、意味があるのかもしれない。
そう、思いたかった。

青白い光が空を割る。その音が大地を揺らす。
温かく優しく愛しい日々が永遠に終わったという無慈悲な宣告。
自分を心から理解し愛してくれた存在の喪失。
私は独りで生きていかなくてはならないのだと、
それを知った代償は余りにも大きすぎて今も心を切り裂いていく。

戦いが起こる度幾度も自分達は問われるのだろうか。
その覚悟を。その行動の責任を。結果を受け入れる事を。
問われるのだろう。
決断を下すということはそういう事だ。
例えエゴイストだと思われても。
これから先の事を思い二つの道の中からしか選べないのなら、
──選ぶしかない。

ふと、あの太陽の様な友の笑顔を思い出す。
無性に逢いたくなったが、今は無理なことだ。
腹を決めた自分を、彼女はどう思うだろう。
もしかしたら悲しませてしまうのだろうか。
そうかもしれない。

雨が、とうとうと地を流れていく。
冷えていく自分の身体をゆっくりと横たえた。
小さく蹲るように身を丸めると、布団を被る。
軒を伝い落ちる雫は、涙と血が落ちる音に聞こえて
時折背筋を走る寒さが、聖雪に教える。

まだ、あの時の忌が明けていないと。

──春霖の、忌が。
スポンサーサイト
ページトップへ

コメント

非公開コメント

ページトップへ
プロフィール

鴬生聖雪

Author:鴬生聖雪
この作品は、株式会社トミーウォーカーの運営する『シルバーレイン』の世界観を元に、株式会社トミーウォーカーによって作成されたものです。
イラストの使用権は作品を発注した鴬生聖雪PLに、著作権は爽見 雍に、全ての権利は株式会社トミーウォーカーが所有します。
=====================
TW2「Silver Rain」参加PC「鴬生・聖雪(おうしょう・みゆき)」の雑記とかいろいろ。
銀雨関係者の方のみコメント・トラバ・リンクフリーです。
リンクの際はご一報下さると、うきうき出かけてまいりますよー。

最近の記事
カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
カテゴリー
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

リンク
ブログ内検索
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。